デザイン会社P.K.G.Tokyo × TORAY開発チーム × RESOLUCIA™
欧州の印刷機メーカーの協力を得て、
持続可能な社会を実現しうる軟包装のフレキソ印刷に挑戦
デザイン会社P.K.G.Tokyo × TORAY開発チーム × RESOLUCIA™
欧州の印刷機メーカーの協力を得て、持続可能な社会を実現しうる軟包装のフレキソ印刷に挑戦
RESOLUCIA™ Story 1リサーチ・デザイン
「TORAY PRINTING PLATES Lab.」はTORAYの印刷プレートによる表現の可能性を探求し、新たなクリエーションにつなげるための実験的な取り組みです。第一線で活躍するクリエーターとパートナー企業がTORAYの印刷プレートを通して出会い、互いに刺激を与え合いながら1つのチームとしてゴールに辿り着くまでの軌跡を連載形式でお伝えします。
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参加クリエーター:
P.K.G.Tokyo
2017年設立のデザインを強みとするブランドマネジメントエージェンシー。リサーチから戦略立案、商品開発、ウェブ企画まで、コーポレートからプロダクトおよびサービスにおけるブランディングを広く手掛けている。また、P.K.G.Labという活動を通して、企業とともにサステナブルな未来を学び、探求する試みを積極的に行っている。
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パートナー企業:
Comexi
主に軟包装用のフレキソ印刷機を扱う、スペインの印刷機メーカー。
印刷から最終工程の自動化まで、幅広い革新的なソリューションを提供している。また、EBインキメーカーとも提携し、EB印刷システムを推進している。 -
プロジェクトチーム:
TORAY開発チーム
東レ株式会社印写システム事業部に所属するフレキソ印刷方式用超高精細印刷版「RESOLUCIA™」プロジェクトチーム。 愛知県の東レ・岡崎工場を拠点に、フレキソ版プレートの常識を超えた高品質な製版・印刷による新しい価値の創造を通じて社会に貢献するため、印刷版の品質向上に取り組んでいる。
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印刷プレート:
RESOLUCIA™
フレキソ版プレートの常識を超えた高品質な製版・印刷を実現。東レの技術革新によって200線レベルの高精細に対応したことで再現性が向上しただけでなく、完全水現像により従来の溶剤現像方式と比べ製版時間が大幅に短縮され、高い生産効率も確保。
東レの樹脂凸版技術を生かしたRESOLUCIA™で、
フレキソ印刷市場へ向けた新たな価値の提案を
― 桜の見頃が終わり新緑が輝きを増した4月某日、デザイナーの天野さんと長田さんは日本橋にあるTORAY本社の会議室の扉を開いた。そこでは「TORAY PRINTING PLATE Lab.」に参加するパートナー企業がスペインの印刷機メーカーであるComexiに決まったことを受けて、現地と繋いだオンラインミーテイングを行うための準備が進んでいた。―
TORAY開発チーム(以下 TORAY):本日はお越しいただきありがとうございます。今回フォーカスするRESOLUCIA™はフレキソ印刷に使われるプレートです。
東レでは、長きにわたり樹脂凸版印刷市場において、高精細な印刷品質と高い耐久性を両立したTORELIEF™を世界中のお客様にご愛用頂いてきました。
一方、樹脂凸版印刷からデジタル印刷、フレキソ印刷などの他印刷方式への移行が進んでおります。そのため、東レ開発チームは、これまで樹脂凸版印刷市場で世界No.1シェアを築き上げてきたTORELIEF™の技術を展開し、完全水現像の製版方式、及び、高精細な印刷品質を実現するフレキソ版を開発し、この度、新ブランドとしてRESOLUCIA™を立上げました。
フレキソ印刷は、海外ではラベルなどの印刷に採用され、大量印刷方式として知られています。今回、海外のフレキソ印刷の市場に対してRESOLUCIA™の魅力を発信するために、「TORAY PRINTING PLATE Lab.」のパートナー企業を探していました。
P.K.G.Tokyoデザイナー天野さん(以下 天野):これまでTORELIEF™で築き上げてきた技術やノウハウを存分に生かして開発されたのが、RESOLUCIA™ということですね。
コロナ禍や不安定な世界情勢の影響を受けて、企業探しが難航しているのを伺っていたので、良い方向に進んでホッとしました。今回は弊社デザイナーの長田と共にデザインをご提案したいと思いますのでよろしくお願いします。
P.K.G.Tokyoデザイナー長田さん(以下 長田):海外の印刷会社さんと関わるのは初めてなので、とても新鮮な気持ちです。今回、どのような経緯でComexiさんに決まったのですか?
TORAY:以前研究を共同で進めていたご縁があり、お声かけしたところ快くご参加いただけることになりました。Comexiさんはスペインの印刷機メーカーで、軟包装をターゲットとしたフレキソ印刷機が主力商品となります。また、EBインキ(※)など環境負荷の少ないインキを積極的に使用しているのも特徴です。
※EBインキ(EB硬化型インキ):電子線(Electron Beam=EB)を照射することで硬化させるインキ。 従来のインキのように熱風乾燥工程を必要としない。
天野:なるほど。日本だと軟包装はグラビア印刷で刷ることが多いですよね?
TORAY:そうですね、これまでは品質の高さからグラビア印刷が選ばれることが多かったと思います。
しかし、近年、特に海外ではフレキソ印刷を選ぶお客様も増えてきております。
ジョブにもよりますが、安価で簡易的に印刷できること、また最近ではグラビア印刷にも見劣りしない品質で印刷できるようになってきたことが、フレキソの需要が伸びている背景かと思います。
そういった市場のトレンドに合わせ、東レが総力を挙げて開発してきたRESOLUCIA™を世界中の皆様にご紹介したい、そしてこれまでにない新たな提案をしたいと私たちは考えています。
今回協力頂いたComexiさんはEBインキを使用したフレキソ印刷に挑戦されている会社であり、RESOLUCIA™としての歩みを大きく進める素晴らしいパートナーであると感じています。
では、ここからは現地とのオンラインミーティングの準備が整ったようなので、担当者の方に詳しくお話を伺いましょう。
テクニカルセールスディレクター Jordi Puigさん(以下 Comexi):今日はオンラインながらお会いできて嬉しいです。Jordi Puigと申します。私は28年間Comexiに在籍し、現在はテクニカルセールスディレクターという、技術分野・研究開発分野・販売分野の中間に位置する職責を担っています。お客様がべストな製品を見つけられるようにサポートする一方で、当社のエンジニアが開発すべき新製品を定義できるように支援しています。
天野:機械のプロでありながら、営業活動も担っているのですね。Comexiではどのような印刷機を製造されているのでしょうか?
Comexi:Comexi の主製品はセンターインプレッション型のフレキソ印刷機で、60年以上前に製造を開始しました。その後、フレキシブルパッケージ印刷用に溶剤レスであるオフセット技術をセンターインプレッションドラムと組み合わせる機会を見出し、センターインプレッション型オフセット印刷機にも参入しました。そして現在は、デジタル印刷機の製造にも力を入れています。将来的にはデジタル印刷機の時代が来ると予想しているからです。
TORAY:フレキソ機はインライン型が主流で、センターインプレッション型にはあまり馴染みがないように思います。何が違うのでしょうか?
Comexi:インライン型は、問題点としては、素材を乾燥させるときに加熱されて伸びてしまうことがあります。それに対してセンターインプレッション型では、中央のドラムの周りにあるデッキ全てにインキなどの材料を置くことが可能です。すべてのデッキがこのドラムに面していて、デッキとデッキの間の素材は、浮いているのではなくドラムに固定されています。そのため、素材が伸びることがないのです。
TORAY:なるほど、そのような特徴があるのですね。
Comexi:色の見当の揃いやすさについては、センターインプレッション型の方がずっと優れています。この点はフレキシブルパッケージにおいてとりわけ重要です。なぜなら、フレキシブルパッケージングに使用されるのは、フレキシブルな素材、つまり柔軟かつ伸縮性のある素材だからです。昨今は、ポリエチレンのような非常に薄い素材や伸縮性のある素材が好まれる傾向があります。つまり、非常に難しい技術で高い品質の印刷をしたい場合には、センターインプレッション型印刷機が必要です。
TORAY:薄い素材ほど、センターインプレッション型のフレキソ印刷機が適しているということですね。
Comexi:ラベルはボトルやパッケージに貼り付けたりするため非常に厚みがあり、素材の弾力性はあまり重要ではないので、ラベルのほとんどはインライン型です。しかし、フレキシブルパッケージングとなるとセンターインプレッション型印刷機が重要になります。
天野:分かりやすい解説をありがとうございます。海外ではパッケージ市場でもラベル市場でも、フレキソ印刷の人気が高まっているように思います。フレキソ印刷の利点は何だと思われますか?
Comexi:軟包装分野で競合となるグラビア印刷と比較した場合の長所について述べると、より環境にやさしく、より持続可能であるということです。グラビア印刷では大量の溶剤を使用するため、大量のVOC(揮発性有機化合物)が発生します。しかし、フレキソ印刷ではその量を大幅に減らすことができますし、インキの使用量も少なく、インキ自体に含まれる溶剤も少なくて済みます。
天野:時代のニーズにマッチしているのですね。
薄ければ薄い原反であるほど
フレキソ印刷が適している
Comexi:フレキソ印刷はグラビア印刷と比較して、別のジョブへの切り替え時間がずっと短いという点が挙げられます。一般的にフレキソ印刷機の場合は40分で変更できますが、グラビア印刷の場合は80分から100分必要となります。つまり、フレキソ印刷では、ジョブの切り替えにかかる時間を、半分に短縮できるのです。さらに近年では1つ1つのジョブが短いという傾向があることを合わせて考えてみましょう。ジョブの切り替え回数がより増えるので、フレキソ印刷の方がグラビア印刷よりずっと有利だということなります。
長田:海外でフレキソ印刷が主流なのはそういった理由があるのですね。
Comexi:また、新しい技術によってフレキソ印刷のクオリティはグラビア印刷と同じレベルにまで向上しました。それに加えて、より固形分が多く溶剤分が少ないインキであるEB硬化性インキを使えば、従来の溶剤ベースのインキよりも高い品質を得ることができるのです。つまり、同じ品質で、より持続可能で、より低コスト、より高収益になるということです。さらに、汎用性の高い技術ということで、どんな食品パッケージでも、フレキソ印刷で作ることができるのです。市場にあるどんなパッケージも、フレキソ印刷で作ることが可能なのです。
TORAY:ちなみに、グラビア印刷からフレキソ印刷へ移行することは一般的なのでしょうか?
Comexi:世界ではグラビア印刷からフレキソ印刷への移行が進んでいて、特にアジアでは、溶剤の使用に関して非常に高い規制があります。グラビア印刷の代替技術なら、一番簡単なのはフレキソ印刷となります。
天野:なるほど。これらのメリットを踏まえて、フレキソ印刷はどのようなパッケージに向いているとお考えでしょうか?
Comexi:全てと言ってもいいかもしれません。とりわけ薄ければ薄い素材であるほどフレキソ印刷が適しています。非常に薄いポリエチレンのパッケージを作ろうとしても、グラビア印刷では不可能です。
長田:ヨーロッパのパッケージ業界では最近薄いフィルムが非常に好まれているようですね。これはなぜなんでしょうか。
Comexi:サステナビリティの観点から私たちが早急にすべきことは、プラスチック量を減らすことです。色々な利点からプラスチック製品をなくすことはできませんが、例えば40ミクロンの代わりに30ミクロンに変更できれば、プラスチック量を減らすことができます。また、ポリエチレンを薄くすれば、伸縮する素材になります。伸縮性があれば、フレキソ印刷で印刷しやすくなるんです。だからより薄いポリエチレン素材が求められているのです。さらに、薄い方が安くて済みます。
「より良い世界のためのより良いパッケージング」を目指して、
軟包装業界が持続可能なものとなるように支援したい
TORAY:環境面やコスト面からも、より薄いフィルムが望まれるわけですね。では、次の質問です。EBインキについて、利点や特徴を教えてください。
Comexi:EBインキは硬化型のインキです。硬化性インキの場合、インキ自体は固形部分が多く、乾燥せずに化学反応が起きて固まります。例えば、UVインキはUV ライトを当てて化学反応を起こし、硬化させています。しかし、EBインキはライトを必要とせず、電子線を使います。このように、EBインキと従来の溶剤インキの大きな違いは、乾かさないで硬化する、化学反応を起こすということなんです。
天野:なるほど、電子線で硬化するのですね。
Comexi:そして、EBインキをフレキソ印刷で使用する場合溶剤の量を大幅に減らすことができる上に、乾燥に熱風を使う必要がないので、ガスも必要ありません。さらに、インキの固形分が増え溶剤でにじまないので、鮮明な印刷ができるようになりました。また、ドットゲインは少ないですし、品質な印刷を行うことができます。加えて、インキは化学反応により硬化しているので、物理的・化学的な耐性や、耐熱性は従来のインキよりもはるかに高いです。EBインキを使えば、インキの上にニスのコーティングを施すことができ、さまざまな効果を生み出すことができます。光沢やマットなどお好みの効果を得ることもできますし、ラミネート加工が不要なため、材料の量を減らすことができます。コストを削減しつつ、リサイクルしやすい単一素材・単一分子の製造がより容易になるのです。
TORAY:EBインキは、環境にやさしいのみならず、コスト削減、そして高精細も実現しているのですね。通常の従来インキを使う場合、インキを使って印刷して、別途ニスやラミネート加工をしなければなりませんよね?
Comexi:そうですね。例えばポリエチレンとポリエステルでラミネートされたパウチは素材を分けることができないのでリサイクルはできません。しかしEBニスを使えばポリエチレンのみで、より耐久性・耐熱性に優れる単層のパウチを作ることができるのです。つまり、モノマテリアルパウチを作るのにEBニスは無くてはならない存在なんです。
天野:EBインキは一般的に多く使われているのでしょうか?
Comexi:EBインキは現在発展途上の技術で、世界でも使用しているのはまだ数社です。Comexiでは、サステナビリティの観点から、EBインキに力を注いでいます。これは私たちのミッションの中心となる部分です。私たちの信条は「より良い世界のためのより良いパッケージング」です。軟包装業界がより持続可能なものになるよう支援するために、EBインキは最適な技術だと考えています。しかし、世の中に出てきたばかりの技術であるため使用しているお客様はわずかです。オフセットでのEBインキは昔から知られていますが、フレキソでのEBインキ対応はまだまだ始まったばかりです。
天野:Comexiは EBインキのフレキソ印刷機を販売するパイオニアになるわけですね。
Comexiの環境に対する意識の高さ、仕事に対する誇りを感じました。大変学びの多いミーティングで、デザインをする上で重要なヒントを得ることができたと思います。本日はありがとうございました!
Comexi:こちらこそありがとうございました。ぜひスペインにも来てくださいね。
日本が誇る「旨味」の文化を発信するため、
「UMAMI JAPAN」と題したパウチをデザイン
― Comexiとのミーティングから数週間後の5月某日、デザインプレゼンテーションのために表参道に位置するP.K.G.TokyoのオフィスにTORAY開発チームが招かれた。―
TORAY:Comexiが軟包装に強い会社ということで、前回のオンラインミーティング後に「ぜひパウチでお願いしたい」とリクエストさせていただきましたが、いかがでしたか?
天野:そうですね、率直に難しいと思いました。パウチはあまり絵になるものではないという印象があったので…。そのため、作品はできるだけシンボリックになるように心がけました。まず、パウチを使って何ができるかと考えた時に、「匂いなどを外に出さない食品に向いている包装資材」という本質的な利点を伝えるものにしたいと。また、TORAYさんはグローバルな製版プレートを事業としている日本企業ですので、PRとしては「JAPAN」というものを打ち出したいと思いました。こうして色々と考えてアイディアを出していくうちに「お出汁はどうだろう」ということにまとまりました。
TORAY:お出汁ですか!RESOLUCIA™は世界に売り出していきたいと考えているので、JAPAN的な要素がぴったりですね。
天野:「お出汁=旨味」は世界に誇るものですので、「UMAMI JAPAN」というテーマで、お出汁の原料である鰹・椎茸・昆布・帆立・小海老・いりこを入れるパウチを6つデザインしました。雫型をお出汁のシンボルにしていて、そこに写真の再現を入れています。雫型にしたのには、水につけることでお出汁が出るということの他に、RESOLUCIA™が水現像であることも意味しています。
TORAY:版の特徴も入れてくださり嬉しいです。早速日本で製版をした後に、6月の頭にスペインで印刷する予定ですので、どのように仕上がるのか楽しみです。
長田:私たちも完成を楽しみにしています。どうぞよろしくお願いします。
総括:日本らしさを打ち出す
シンボリックなデザインをフレキソ印刷で
天野:Comexiの担当者さんとのオンラインミーティングで、自社のフレキソ印刷の機械に誇りを持っていらっしゃることに感銘を受けました。また、環境への意識も大変高く、減プラに向けた様々な印刷技術についても学びが多かったです。今回ご提案したシンボリックなデザインが、今後さらに需要が高まりうる軟包装へのフレキソ印刷によってどのように仕上がるのか期待しています。
長田:デザインに関しては、「Japan Quality」を意識し、日本の高い技術や文化などを広く伝えられるデザインに仕上がったと思います。
和に寄りすぎないように気を付けながら作業した事と、「6種で1つ」という統一感を都度調整しながらの作業が難しくもあり、やりがいを感じられました。
また裏面では色チップやサイズ違いの文字、罫線などをレイアウトし、印刷時に違いを楽しめるように実験的遊び要素も入れたので仕上がりが楽しみです。
TORAY:パウチというと派手なものが多い印象だったので、ご提案いただいたシンプルで日本らしいデザインが斬新でした。シンボルとなる雫の形が水現像も兼ねているというのも、メーカーとしてはとても光栄なことですね。