デザイン会社P.K.G.Tokyo × 三郷コンピュータホールディングス株式会社 × TORELIEF™
シンプルながらグラフィックデザインの難題が詰め込まれた作品を、
印刷のプロフェッショナルが磨き上げられた技術で見事に表現
デザイン会社P.K.G.Tokyo × 三郷コンピュータホールディングス株式会社 × TORELIEF™
シンプルながらグラフィックデザインの難題が詰め込まれた作品を、印刷のプロフェッショナルが磨き上げられた技術で見事に表現
TORELIEF™ Story 3印刷
「TORAY PRINTING PLATES Lab.」はTORAYの印刷プレートによる表現の可能性を探求し、新たなクリエーションにつなげるための実験的な取り組みです。第一線で活躍するクリエーターとパートナー企業がTORAYの印刷プレートを通して出会い、互いに刺激を与え合いながら1つのチームとしてゴールに辿り着くまでの軌跡を連載形式でお伝えします。
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参加クリエーター:
P.K.G.Tokyo 柚山 哲平
柚山デザイン株式会社代表。P.K.G.Tokyoチーフクリエイティブオフィサー。2009年に柚山デザイン株式会社を、2017年にP.K.G.Tokyoを創設メンバーと共に設立。ブランドコンサルティングや商品プランニング、アートディレクションからデザインまでシームレスかつ幅広く取り組んでおり、P.K.G.Tokyoにおいても様々なメーカーの主要商品のブランディングやパッケージデザインを手がけている。
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パートナー企業:
三郷コンピュータホールディングス株式会社 / MCP株式会社
つくばエクスプレスで東京都心から程近い埼玉県三郷市に製造拠点を持つ、ビジネスフォーム印刷をメインとする印刷会社。長年にわたる研究の結果たどり着いた独自技術である長尺印刷「スーパーフォーム」を生かした高精細な印刷品質が高く評価されていて国内外の特許を多く取得している。
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印刷プレート:
TORELIEF™(樹脂凸版印刷方式)
セキュリティ印刷(紙幣)にも採用されるほど高精密な印刷品質を有し、微細文字・罫線が再現可能な印刷プレート。フォーム用紙にも良好なインキ着肉性や、長尺印刷でも印刷品質を保つ高耐久性で高品質と大量生産を両立している。
科学的な検証やデザイン面でのブラッシュアップを経て、
いよいよ印刷へ
― 心地よい秋晴れの11月某日、デザイナーの柚山さんは印刷立ち合いのために三郷市を訪れた。夏に行われたプレゼンテーションから、デザイン面だけでなく天文学的裏付けにもブラッシュアップを重ねた作品がいよいよ印刷の日を迎える。工場へと向かう車内で、期待と不安が入り混じったような面持ちの柚山さんに話を聞いた。―
―改めて作品の概要と、プレゼンテーション後に進められた作業について聞かせてください。
P.K.G.Tokyo デザイナー 柚山さん(以下 柚山):今回印刷される約2メートルの作品は、大きい方の黒い丸が地球、反対側の小さい丸が月を表していて、実際の距離と同じ比率で作っています。この数ヶ月の間は、紙を選んだり、使用する線をコンマ刻みで検討する作業などを進めてきました。
―科学的な背景も有した作品ということで、専門家の監修を受けたそうですね。
柚山:自分は天文学のプロではないので、記載した情報が本当に正しいのか間違っているかのチェックをしてもらいたいと。そこで、まずは国立天文台に作品に記載した数値の最終確認をお願いしつつ、日本天文学会の監修プログラムを活用して、茨城大学 理工学研究科の野澤先生にも全体的な監修をお願いしました。
野澤先生とのやりとりでは専門家ならではの着眼点が面白かったですね。そもそも天体同士の距離とは地表面から測るのか、それぞれの天体の中心同士で測るのかなどの議論をしたりしました。ちなみに今回は国立天文台のアドバイスをもとに両天体の中心による距離を作品に採用しています。また、「地球も実は完全な球体ではなく、赤道面で測るのと極軸で測るのとでは直径としての長さが違いますが、この数値はどちらを採用しているのですか?」みたいな話も上がり、そういったやり取りの中から複雑なグラフィックに反映していく作業を繰り返し行なって完成に至っています。きちんと監修していただいたことによってグラフィックそのものに影響を及ぼすので、必要なプロセスだったと思います。
―デザイン面での苦労はありましたか?
柚山:今回の作品はシンプルに見えてグラフィックデザインの難しさや専門的なノウハウが盛りだくさんに詰まっています。グラフィックツールは基本的に見る距離が決まっていて、看板だったら遠くから見るし、パンフレットなどのツールは手元で見るみたいに、情報の受け手との適切な距離があるのです。そんな中でこの作品はその両方の距離感を兼ねる必要があり、ポスターのように離れて全体も見るし、ものすごく近づいてルーペでも見るという、なかなか他にはないものでした。それは本当に難しかったポイントですね。この作品は見る距離を規定できないので、その距離に準じた適切な線幅を設定できないのです。そのためどの線幅がベストかを考え出すとキリがないというか。制作の過程で準備していた線幅は0.3mmから0.001mmまであり、段階的に40本近い線の数を検討しています。
やろうと思えば三郷コンピュータさんの技術なら0.01mmの線であっても印刷表現可能なのですが、人間が線幅の違いを認識できる限界はもう少し手前にあって、細ければ細いほど良いわけでもない。印刷技術を見せるという目的と肉眼で見てとれる限界とのバランスが難しかったですね。しかもそれらを版下としてデータ化していく際、いつも使用しているプリンターでの表現限界を超えているため出力は参考にならず、極細線の数値設定は経験と予想で仕上がりをイメージするしかないんです。夜中に自分の部屋の壁に貼って、近づいたり離れたりして唸りながらどの線をチョイスするか考えたりしましたね(笑)
デザイナーと印刷会社、
それぞれの物差しを重ねて最適解が導かれる
― いよいよ印刷が始まると、柚山さんと製造部社員の方々との間で、より良い作品にするための細かなやりとりが交わされていく。デザイナーと印刷会社で持っている物差しの違いがある中で、バランスと折り合いをどう図るかを議論。各々のプロフェッショナルが仕事を全うし、今回のプロジェクトにおけるベストな作品が刷り上がった。―
―印刷を終えた感想を聞かせてください。
柚山:今回は非常にシンプルなグラフィックで、最終的に極細線をどんな仕上がりにするか印刷機の前で最後まで悩んだのですが、それってよく考えたら改めてすごい話だなと。1/100mmの線の濃度の違いを悩むなんて、日頃の印刷立ち合いでもなかなかないですよね。でも、その違いで見た人がどう感じるかをコントロールするのがデザイナーの仕事なのでとてもやりがいがありました。また、印刷の際も印圧だったり、刷り出しの速度調整だったり、プロフェッショナルの技術に触れられたことは改めて勉強になりましたね。
三郷コンピュータホールディングス株式会社 代表取締役会長 福田さん(以下 福田):ベタをムラなく刷ること、罫線が潰れないことに気を配りました。そのために機械をしっかり作ってありますからね。また、私はいつも言っているんですが「圧を掛けないで、圧を抜かない」ということを大事にしています。そのために、ベタでも罫線でも一定の面積に常に一定の印圧を掛けることが出来るバウンシングの無い印刷機造りをしています。
そこが工夫のポイントですね。あとは、製版の担当が苦労したと思いますが、今まで技術を磨いてきていますので。とても頑張ってくれました。
製造部社員さん(製版担当):版を作るにあたり、ベタとその中にある細線の白抜き、細罫の印圧強度など全て相反するもの同士のバランスを、光量や様々な条件・要素がある中でどれに重きを置くかというのを選定して、テストも重ねながら仕上げていきました。お客様のやりたいこと、希望を実現するのが仕事なので、どこまで近づけるかという部分で緊張感はありましたね。
製造部社員さん(印刷担当):印圧をとにかく意識しましたね。そこはオペレーターの技量にかかっています。また、ベタ部分にゴーストが出ているのを柚山さんが気にされていたので、スピードを落として調節しました。
―印刷の濃度について議論が重ねられていましたね。
柚山:印刷表現としてはインクの濃度が薄い方が無理がないと思うのですが、今回できる限り濃度の濃い表現にチャレンジしていただきました。最終的には額装してアートとして完成させるので、1枚の絵としてのインパクトを求めるのであれば力強く見せた方が良いと考えたからです。ひとまず着地点が見つかったので良かった。製造部の皆さんがこちらの細かい要望に対して印刷的経験値を踏まえながら、最適解を提案してくださり、大変満足のいく仕上がりになりました。プロの仕事を見せていただきありがとうございました。
総括:TORELIEF™はこれだけのことができる!
というアピールになる作品を作り上げることができた
福田:とても勉強になりました。我々とは違った考え方をなさるので。また、今回の作品をできるだけたくさんの人に見ていただきたいですね。TORELIEF™はこれだけのことができる!というアピールになるものを作り上げることができたと思います。フォーム印刷で46m(1810インチ)の印刷実績がある我が社の刷版を正確に繋ぐ技術とショアD硬度30度の柔らかい版でベタと白抜き、細い罫線とマイクロ文字のように相反する条件を同時に製版し綺麗に印刷できる、TORELIEF™はとても良い版ですよ。TORELIEF™は広い面積の中での厚み精度がすこぶるよく出来ていることと、ミクロン単位までの製版が実現可能な特徴が、難しい印刷が実現できるTORAYさんの大きな強みだと思っています。
柚山:非常に細かくシンプルながらとても難しい作品で、自分としてもチャレンジだったのですが、三郷コンピュータさんの高精細な長尺印刷の技術で再現していただくことができました。ここでしかできないものが完成したと思います。
TORAY担当者:皆さんのプロフェッショナルなお仕事ぶりを当社の印刷プレートを通して間近で拝見させていただくことができ、とても貴重な経験をさせていただきました。また、福田会長が「TORELIEF™はとても良い版ですよ」と仰って下さったことで、自社の製品に誇りを持てました。