デザイン会社P.K.G.Tokyo × 三郷コンピュータホールディングス株式会社 × TORELIEF™
0.5%の網点、0.4ポイントの文字が再現できる樹脂凸版印刷を長尺で。
世界に誇る技術力を生かしたデザインの手法を探る
デザイン会社P.K.G.Tokyo × 三郷コンピュータホールディングス株式会社 × TORELIEF™
0.5%の網点、0.4ポイントの文字が再現できる樹脂凸版印刷を長尺で。世界に誇る技術力を生かしたデザインの手法を探る
TORELIEF™ Story 1リサーチ
「TORAY PRINTING PLATES Lab.」はTORAYの印刷プレートによる表現の可能性を探求し、新たなクリエーションにつなげるための実験的な取り組みです。第一線で活躍するクリエーターとパートナー企業がTORAYの印刷プレートを通して出会い、互いに刺激を与え合いながら1つのチームとしてゴールに辿り着くまでの軌跡を連載形式でお伝えします。
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参加クリエーター:
P.K.G.Tokyo
2017年設立のデザインを強みとするブランドマネジメントエージェンシー。リサーチから戦略立案、商品開発、ウェブ企画まで、コーポレートからプロダクトおよびサービスにおけるブランディングを広く手掛けている。また、P.K.G.Labという活動を通して、企業とともにサステナブルな未来を学び、探求する試みを積極的に行っている。
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パートナー企業:
三郷コンピュータホールディングス株式会社 / MCP株式会社
つくばエクスプレスで東京都心から程近い埼玉県三郷市に製造拠点を持つ、ビジネスフォーム印刷をメインとする印刷会社。長年にわたる研究の結果たどり着いた独自技術である長尺印刷「スーパーフォーム」を生かした高精細な印刷品質が高く評価されていて国内外の特許を多く取得している。
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印刷プレート:
TORELIEF™(樹脂凸版印刷方式)
セキュリティ印刷(紙幣)にも採用されるほど高精密な印刷品質を有し、微細文字・罫線が再現可能な印刷プレート。フォーム用紙にも良好なインキ着肉性や、長尺印刷でも印刷品質を保つ高耐久性で高品質と大量生産を両立している。
「スーパーフォーム」という世界唯一の画期的技術で、
切れ目のない長尺印刷ができるのが最大の強み
P.K.G.Tokyo デザイナー 天野さん(以下 天野):本日はP.K.G.Tokyoを代表して三郷コンピュータホールディングスさんのお話を伺えるのを楽しみに参りました。現場の方の声をたくさんチームに持ち帰りたいと思いますのでどうぞよろしくお願いします。
三郷コンピュータホールディングス株式会社 代表取締役会長 福田さん(以下 福田):TORELIEFとの付き合いも長いですし、良いところも悪いところも熟知しております。とにかく色んなものを刷ってきましたが、例えば高速道路の通行券も製造しました。年間12億枚くらいかな。
あと自社で偽造防止シートにも挑戦しています。インクジェットプリンタでは再現不可能な0.6~0.8ptの数字を伴った子連れナンバーを入れ込んで印刷。二桁ずつ5版(合計10桁)をそれぞれ00~99、00~98、00~97、00~96、00~95とずらして印刷すると、90億枚以上違った印刷が出来ます。右上の数字が変わると、その数字の並び通りにデザインナンバーが変わります。数字の変化だと解りやすいので数字にしております。
天野:マイクロ文字、すごいですね。(スコープを覗きながら)こんなに綺麗に出るんですね。
福田:ちなみに、マイクロ文字のはっきりとした定義はないんですよ。我が社では漢字が潰れずにきちんと読めることを重要視しています。ローマ字は簡単だけれど漢字は難しいんです。あとは樹脂凸版であることが大きいですね、1番綺麗に印刷できる手法だと私は思います。正確に小さいところまで出せるので。マイクロ文字は0.4ポイントまで漢字印刷が可能です。
天野:樹脂凸版ならではなんですね。御社は長尺印刷も特徴の1つと伺いました。
福田:「スーパーフォーム」という当社特許による世界唯一の画期的技術でして、切れ目のない長尺印刷ができるんです。キャンペーンレシート、長尺カレンダー、絵本や経本など長く繋がったものが刷れます。そもそもなぜ長尺印刷をやろうと思ったかというと、昭和52年が会社の設立なんですがその年に多額の不渡りをくってしまい、通常では回復できない、何とかしないとダメと思案していました。一方、皆さんが困っておられた長尺印刷の課題のリピートの長さ、納期問題を見聞きして「これだ!!」と思いました。
そしてこの課題を解決する為に考え出したのが、これまでの輪転印刷の常識であったシリンダサイズによって印刷の寸法が決まる事に対して、1種類のシリンダサイズで様々なサイズの多色印刷を可能にした「スーパーフォーム」です。我が社では多色は8色まで、印刷スピードは通常150~180m/min、単色なら最大46mの実績があります。
天野:それはすごい!長尺にする理由としては、一度にたくさん刷れるというところが大きいですか?
三郷コンピュータホールディングス株式会社 代表取締役会長 福田學さん
約90億枚全て異なる数字を入れる事が出来るデザインナンバー
(右上の数字とデザインの中に隠れている数字が一致する)
インキミストが出ないので工場は清潔そのもの
鳥獣戯画 甲巻が印刷された長尺マスキングテープ
福田:長尺印刷の良いところは、例えば、従来の短尺印刷は納税帳票をそれぞれ別々に印刷してデータを入れ込んだ後帳合いしていたがその際に他人のものが混ざってしまう危険性がある。一方、同人の異なった帳票を順序よく長く続けて印刷出来る所が長尺印刷の良いところです。
天野:ものすごく早く大量に刷れるんですね。プレートはずっとTORELIEFを使用されているんですか?
福田:TORELIEFの前は別のメーカーのものを使っていたんですが、液状だったので、厚み精度が良くないんですよ。印刷では致命的なこと。ズレが生じたり、印刷が綺麗ではなかったり、一晩中やっても出来上がらないこともありました。
そんな時に固形版のTORELIEFが出たんです。いやぁ、嬉しかったですね。すぐにTORAYに駆け込んで、何が何でも長いのを作って欲しいとお願いして長尺の版材を作ってもらえたんです。これが本当の意味での我が社の長尺印刷のはじまりです。
天野:そういった経緯があるんですね。
福田:一般のオフセット印刷と異なりシャープかつ高濃度な印刷が可能ですし、ベタ印刷が綺麗に出来ます。厚みのムラがほとんどなく、10ミクロンの厚み精度で長さが出せる立派な商品ですよTORELIEFは。インキミストがないので工場が清潔に保てますし、20年使っている工場でも天井・床がきれいです。機械自体もほとんどインキの汚れはないんですよ。とても健康的です。
天野:昨今はVOCの問題もありますから重要なポイントですね。
インキミストが出ないので工場は清潔そのもの
鳥獣戯画 甲巻が印刷された長尺マスキングテープ
常識にとらわれない発想力でどんな要望にも応えてきた。
今後も印刷でないとできないことを提案していきたい
天野:福田会長はもともと機械や印刷がお好きだったんですか?
福田:好きでしたねぇ。よくどこの理工学部を出たんですか?と聞かれますが経済学部出身です。しかも印刷会社で働きながら夜間部を卒業しました。印刷の事は人に教わっていないので、常識にとらわれず変わった事ができるんですかね。
天野:好奇心の賜物なんですね。
福田:常識の範囲内で物事を考えてはダメなんです。そこを乗り越えないと良い仕事はできない。
天野:なるほど。樹脂凸版のみでやられているんですか?
福田:我が社は樹脂凸版のみですね。レタープレスの中の長尺印刷については、社内では常識がどんどん変わっているんですが、他には発信していないので。今回良い機会かなと思い、取材をお受けしました。
天野:貴重な機会をありがとうございます。三郷コンピュータホールディングスさんの歴史はTORAYさんとの歩みでもあるんですね。
福田:TORAYさんは神様みたいな存在です。技術的なサポートを本当に丁寧に対応してくれましたし、他の会社ではやってくれないこともTORAYさんなら叶えてくれました。私は今年で83歳ですが、今後の夢はマイクロ文字で更なる偽造防止をすることです。樹脂凸版印刷じゃないとできないことを提案していきたいですね。
天野:福田会長の飽くなき探究心には頭が下がります。線数はどのくらいまでいけるのでしょうか?
福田:もともとマイクロ文字をやりはじめたのは「300線できる?」とお客さんに聞かれたのがきっかけですが樹脂凸版の印刷は120線がちょうどいいかな、力強くて。目詰まりもほとんどないですし。樹脂凸版はとにかく仕上がりがきれいなんですよ。
和やかな雰囲気のもとでリサーチが進む
高い技術が駆使された長尺の印刷物とともに本社屋上にて集合写真
天野:なるほど。製版の機械は特注で作ってもらっているんですか?
製造部のみなさん(以下 MCP社員):特注というかほとんど会長が発明されたものですね。
福田:今まで色んな印刷物をやってきましたが、お客さんからこういうものを刷りたいって言われて断ったことはないですね。みんなモノ好きというか、印刷が好きなんですよ。
天野:多くの方に技術の高さを知っていただきたいですね。今回のデザインに関しては製版の問題もあると思いますが、どのくらいの長さが良いのでしょうか。
MCP社員:絵柄の切れ目なくやるのであれば2.2mくらいですかね。
天野:それだけ長さがあれば十分ですね。版の良さや印刷の良さを出すにはどういうデザインが望まれているのでしょうか?
MCP社員:樹脂凸版の良さと当社の製版技術の高さを取り込んだデザインをしていただけたら嬉しいですね。あとは仕上がりの面では折りと巻き取りが出来ます。
天野:長尺であること、高精細な印刷ができるなどの特徴をユニークな形で再現して印刷の魅力を引き出したいですね。0.5%の網点、0.4ポイントの文字が再現できる点もうまく取り入れたいですし、出来上がったものがそれを飾るだけでおもしろいデザインが施されたものになればいいのかなと思います。みなさんから受け取ったものをどうデザインに落とし込んでいくか、P.K.G.Tokyoチームで検討を重ねたいと思います。本日はお忙しいところありがとうございました!
総括:これまで門外不出の長尺・高精細レタープレスの価値をチームで共有し、
誰もが驚く最高のアウトプットを引き出したい
天野:福田会長のご依頼で1度目のリサーチの翌週に再訪したところ、これまで未公開としていた技術を惜しみなくお話いただけました。最大の目標である「輪転機の全ての欠点をなくすこと」を実現するために独学で機械を発明し、TORELIEFに出会ってからはTORAYとともに製版プレートの改良をしているとのこと。
輪転機の常識を超える、わずかなガタつきをも許さない特別な印刷機で再現するマイクロ文字や長尺印刷は、独自の手法で0.5%の平アミを再現できる製版技術にも支えられているそうです。そのような門外不出の技術を世の中に広めたいという福田会長の思いを受け止め、誰もが驚くようなアウトプットをP.K.G.Tokyoチームで実現していきたいです。
長年の努力の結晶である長尺印刷の機械は圧巻
埼玉県三郷市に拠点を置く三郷コンピュータホールディングス株式会社
高精細な印刷物を凝視する天野さん
代表取締役 中野雄大さん
マイクロ文字で印刷された夏目漱石の「坊っちゃん」